2019年7月22日月曜日

アリス 70年代フォークとラジオ深夜放送の時代


このところ、往年のニューミュージック・グループの「アリス」が活動を再開しているそうで、ファンとしては喜ばしいところである。と言いつつ、アリスの名前を聞いて何らかの感慨を抱くのはわれわれ世代から上の昭和のおじさん・おばさんであろう。だいたい、ニューミュージックという言葉がすでに若い読者ちゃんたちには意味不明だろうと思うが、要するにそれまでフォークソングと呼ばれていた若者向けの音楽が、だんだんと歌謡界の主流になってきちゃったのである。「チャンピオン」がベストテンの1位になって、ニューミュージックの頂点を極めた感じのあったアリスだったが、そのあとあっさり活動を停止しちゃったので、オフコースあたりに比べると若年層の知名度はかなり低いのではないかと思う。(もちろん、谷村新司や堀内孝雄を知らない人はいないだろうけど)



そのアリスだが、思い返せばとにかく「売れない」フォークグループだったのである。70年代というか昭和50年前後には、フォークの曲が爆発的にヒットするのが当たり前の現象になっており、吉田拓郎をはじめとして、かぐや姫、井上陽水、グレープ、チューリップ、海援隊、バンバン(谷村のDJの相棒だったばんばひろふみのグループ)と主だったところはヒットを飛ばしているのに、なぜかアリスだけはレコードが売れない。といってもアリスの知名度が低かったわけではなくて、谷村新司はラジオの深夜放送「セイ・ヤング」と「ヤングタウン」のDJとして若者の間で絶大な人気を得ていた。谷村の番組は当時の中高生のほとんどが聴いていたのではないだろうか。僕はどちらかといえば関西圏に住んでいたのだが、関西のノリが好きではないので雑音まじりの「セイ・ヤング」の方を聴いていた。



音楽的には、アリスの二枚目のアルバム「アリス2」が非常に完成度の高い出来だった。シングルでも出た「愛の光」を筆頭に、甘いカレッジ・フォークから大人のクールなフォークへと一歩抜け出した感じがあった。このアルバムの収録曲が後年まで、コンサートにおける定番のナンバーになっていたわけで、やはり前期アリス・サウンドの基本は「アリス2」ということになるだろう。そのあと、アリスがやや迷走を続けたように見えるのは、なぜかヒット曲が出ないという焦りと、なんとか売り出そうとむきになっていた(?)会社側の姿勢のせいではないかと思うのだ。



「アリス3」では松本隆・都倉俊一というヒットメイカーを起用したシングル曲「青春時代」をはじめ、かまやつひろしなどの有名作曲家の曲をメインに据えるという思い切った作戦に出たが、ファンからは大不評を買い、むしろ「走馬燈」「星物語」といった地味なオリジナル曲の方が光るという皮肉な結果に終わった。もっとも、その「青春時代」はなかなかの名曲であり、松本ワールド全開という意味ではkinki kidsの「硝子の少年」の先駆けと言えるのではないだろうか。次の「アリス4」ではヤング向け映画「恋は緑の風の中」の主題歌を歌い、「小さな恋のメロディ」の日本版を狙ってみたものの、世間的には全くの不発。しかし、この時期には谷村のDJが深夜放送における人気トップという状態になっており、ラジオを聴いている若者層を中心に、LPレコードが隠れベストセラーになるという現象が起きていたのである。谷村新司と堀内孝雄がソロ活動を開始したのは、ちょうどこのアリスの迷走期であって、アリスとしての活動よりもむしろソロアルバムを中心に、音楽的な成熟度が高まってきたような気がする。



そんな状況下で、久しぶりにアリスらしい、完成度が高くて渋い(?)サウンドが聴けたのがアルバム「アリス5」だった。その直前に出たシングル「今はもうだれも」がオリコン11位という初のスマッシュ・ヒットを記録しており(といってもこれは関西フォークのウッディ・ウーのカバー曲)、さらにアリスのキャリアを通じての代表曲である「遠くで汽笛を聞きながら」「帰らざる日々」も収録されている豪華盤。アリスを知らない人からまず何を聴けばいいかと問われれば、迷うことなく「アリス5」と答えるだろう。そんな質問を受けることはまずないだろうが(笑)。アリスといえばアイドルには遠い微妙なルックスで、若者に絶大な人気があるし曲もいいのに渋すぎて売れないグループだったのだが、ここにきて分かりやすくてノリのいい、一般受けしそうなサウンドが定着してきた感があった。若者の間での知名度、コンサートにおける人気、フォークがニューミュージックとして歌謡曲に近づいていった時代背景など、アリスが人気グループとして大爆発する要素は確かに出そろってきていた。



そうした様々な要素が、初の大ヒット曲「冬の稲妻」で結実するわけである。これは堀内孝雄の長所である、ノリがよくてインパクトのあるメロディ・ラインが完成を見た結果と言えるだろう。この堀内的なポップなメロディは、ソロ曲「飛び立てジェット・プレーン」などの佳作にその兆しが見えていて、このあと同路線で「君の瞳は10000ボルト」「南回帰線」といったアップテンポな曲を連続でヒットさせている。その堀内孝雄がなんと演歌に行っちゃったわけだが、それはまた別のお話である。(そういえば堀内と仲のいい高山厳のヒット曲「心凍らせて」も演歌調だから、これは考察に値するところだろう)



といった感じでアリスを聴いてきた僕であるものの、リアルタイムで付き合えたのは「冬の稲妻」に続くヒット・シングル「涙の誓い」までだった。この辺になると、アリスもファンも「ヒットしないとまずい」という空気になってきており、とにかくヒットチャート上位に行きそうなインパクトの強い曲を優先させる雰囲気になってきたのである(僕の個人的感想だけどね)。だから、アリスとしてはとにかく売れそうな曲を出して、本当にやりたいことはソロアルバムでやるような傾向が強くなってきた。若いのに地味で渋いというアリス本来の特徴はソロの方に移っていったわけで、こうなるとグループとして活動停止したのは必然のように思われる。



それでも、ラストコンサートで数々のヒット曲をメドレーでさらっと流して、最新アルバム曲をメインに持ってきたりするマイペースなところが、さすがにコンサートに年季の入っているアリスだなあと思わされた。僕個人としては、「アリス2」の頃の曲にこだわった末に、「今はもうだれも」「帰らざる日々」で締めるコンサートの構成が好きだった。1978年くらいまでそんな感じだったかな。


(古い話を記憶だけで書いていますので、事実誤認があると思いますがご容赦ください)


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